女性救済の伝統儀式『布橋灌頂会』を体験しよう!

[最終更新日:2022年9月28日]
数多い日本の祭りの中でもまだメジャーにはなっていない、とっておきの祭礼情報があります。それは富山県立山町で行われる『布橋灌頂会(ぬのばしかんじょうえ)』という女性救済の荘厳な伝統儀式なのです。
★2022年9月25日は無観客にて開催されました。

江戸時代の、立山信仰を疑似体験!

立山は日本屈指の霊山(神が宿る山)と言われています。江戸時代に「立山に登ると極楽に行ける」という言い伝えがあり、立山信仰(立山信仰の解説は記事後半に)が盛んでした。ですが当時は女人禁制で、女性は登山できなかったのです。これでは女性は地獄に落ちてしまいます。そこで女性たちのために「登山しなくても極楽浄土に行ける」女性救済の儀式『布橋灌頂会』が始まったといいます(明治時代の廃仏毀釈で廃止されていました)。

1996年に、136年ぶりに再現され、2005年からは3年毎に開催されています。
悩みや迷いのある女性が事前に申込み(参加費用が必要)参加体験ができるのです。あなたの国籍、年齢、宗教は問いません。ただし日本語しか対応していないため、日本語が理解できる女性のみ参加可能となります。

橋を渡ると新しい自分に生まれ変わる!

参加女性たちは女人衆(にょにんしゅう)と呼ばれます。儀式の前日から1泊し、身を清め懺悔。儀式には白装束を身にまとい、目隠しをし、三途の川に見立てられた川に架かる布橋を渡ります。布橋は煩悩の数108枚の板からできているのです。
布橋はこの世(此岸)とあの世(彼岸)の境界で、無事に渡り切ると、死後に極楽浄土に行けると信じられていました。

荘厳な雅楽とともに高僧が女人衆を導くように進みます。山伏たちがほら貝を吹き、観ているだけでも心が清められるようです。
朱塗りの布橋を渡ると、向こう側はもうあの世。念仏を唱え、再び橋を渡り、この世に帰って来た時には新しい自分になっているのです。これは「疑死再生」という意味があります。

最新情報のチェックをお願いします

この荘厳で美しくも不思議な儀式は3年に一度行われます。
女人衆募集の情報もチェックしてください。
対象は1人で橋を渡ることができる女性。女人衆募集がされ、申し込み多数の場合は抽選で参加が決まります。
参加費用:2万円(白装束レンタル代含む)
※足袋、数珠は各自でご用意ください。
●観覧席(無料)
橋渡りの儀式をゆっくりと座って観ることができる席が用意されます。もちろん、観覧は老若男女どなたでも無料です。

★抽選に外れても、男性でも、橋渡りはできる!
一般の観光客も国籍性別年齢問わず、女人衆が橋を渡った後に、実際に布橋を渡ることができます(ただし白装束などの衣裳はなし)。
一般の橋渡り費用:2000円
もちろん橋渡りに信仰の有無や宗教も問われません。
癒されたい女性だけでなく、登山や自然が好きな人、立山信仰の歴史に興味のある人、ご夫婦、家族や友達同士でも、男性一人でも不思議な宗教儀式体験ができるのです。

2022年(令和4年)9月25日は無観客にて開催されました。

富山県立山町観光協会
住所:富山県中新川郡立山町前沢2440
TEL:076-462-1001(代)
URL:https://yukutabi-tateyama.jp/
mail:tateyamakk@hyper.ocn.ne.jp

解説:日本人の宗教観と神仏習合

神を信じない無宗教の日本人が多いと言われていますが、それは間違いです。特定の宗教団体に所属してはいませんが日常的に「冠婚葬祭」(=成人式、結婚式、葬式、法事)の行事で無自覚に宗教に接しているのです。唯一神ではなく「八百万の神」(数多くいる神様という意味)が存在し、物にも魂があると考えたり、輪廻転生や前世があるとも多くの人が信じているところもあります。1軒の家の中に「神棚」(=神道の神を祀るための棚)と「仏壇」(=仏教の礼拝施設)の両方を常設している家庭もたくさんあります。こういう日本土着の神道と仏教信仰(日本の仏教)が混淆し1つの信仰体系として再構成された宗教現象を「神仏習合」といいます。他の文化圏の宗教に関しても非常に寛容です。憲法でも「信教の自由」をうたっているため、宗教弾圧や差別がないといえます(ただし執拗な勧誘を行う新興宗教や怪しいカルト宗教団体には敏感な面もあります)。

解説:立山信仰とは
神道と仏教のミックスが立山信仰です。人々は、山そのものが神、または神の住む山として遠く離れた所から拝んでいました。「極楽往生を願う」「悪事をはたらくと地獄に落ちる」という思想は人々の心に深い影響を与えていたのです。また「立山修験」(たてやましゅげん)と呼ばれる修験道でもあります。修験道では、山へ籠もって厳しい修行を行うことで悟りを得ることを目的としています。日本古来の山岳信仰が仏教に取り入れられているのです。修験道の実践者を修験者(しゅげんじゃ)または山伏(やまぶし)と呼びます。伝説上の「天狗」は「山伏」の格好をしているものが有名で、古代から続く山岳信仰に結びついたものでしょう。


注意:「祭り」の意味と雰囲気
日本語の「祭り」は全て「フェスティバル」と直訳される場合が多いのですが、その祭りによっては「行事」「儀式」という意味合いのものもあり、祭りの目的も雰囲気も全く違います。明るく元気な祭り、荒々しい祭りもあれば、鎮魂の意味がある厳かで静かな祭りもあります。


▲2006年ポスター「橋の向こうに新しい私がいます」

※この記事は、2015年3月13日に「アークのブログ」にて公開された後、加筆修正したものです。


▲[立山布橋灌頂会 Nunobashi Kanjoe Purification Ceremony on Holy Mt.Tateyama](音が出ます)